ディーゼル車を植物油燃料車に改造
AWHでの実験

我々が普段乗っている車が、大気を汚染していることが常々気になっておりました。何かできることはないだろうかと、現在利用できるテクノロジーで模索しておりましたところ、植物油を燃料として走る車に改造できることがわかりました。
そこで、環境保護への取り組みとして、自らの車を改造してみることにしました。2007年にカリフォルニアで改造用キットを購入し、フィリピンに持ち帰りました。
そのキットは、1979年~1985年のメルセデスベンツで、モデルが240Dか300D用と指定されておりましたので、それに見合う中古車を探しました。
フィリピンに輸入される車には、亜熱帯気候用の改良が施される他、特別な関税もかかります。更にペソ高も手伝って、高い買い物となりましたが、環境のため、改造を断行しました。

車の購入までに約3ヶ月ほども費やし、結局改造を行ったのは2008年4月でした。
フィリピンでディーゼル車から植物油燃料車への改造を行っている友人のジョランに依頼しました。
朝から夕方までかかって改造は見事完了し、早速10リットルの未使用パーム油を注ぎました。
まだいくらかタンクにディーゼルが残っていたのですが、ジョランいわく、植物油と混ぜても問題ないということでした。
それならどこかで廃食油の燃料が無くなっても安心です。
新しいパーム油でのテストは成功し、見事植物油で走ることが証明されました。停車したときに少しガタガタ揺れますが、パーム油がディーゼルに比べて濃厚なせいであるようです。


パーム油を給油

今度は廃食油での挑戦です。
まず、近くのホテルから使用済みの植物油を安く譲ってもらいます。
カリフォルニア州では、レストランは業者にお金を払って使用済み油を処分してもらうため、無料で引き取ると言えば、喜んで譲ってもらえます。
しかし、フィリピンでは露天商が使用済み油でさらに揚げ物をして売ったり、家畜用のエサに混ぜるなどして利用されており、廃食油といえどもお金を払って購入しなければなりません。
近年、ディーゼルやガソリンの値上がりと共に、廃食油の値段も上がってきています。2005年には1リットル23ペソだったのが、2007年には27ペソ、2008年4月には35ペソとなっています。
近くのホテルで無料で廃食油を提供してくれるホテルがあるのですが、水がたくさん入っていたり、乳化・白濁した半固形物が混ざっていたりと、初回はそのまま利用して、遠心分離装置に支障をきたすほどでしたので、使用を中止しました。


枕カバーで不純物をろ過

枕カバーで不純物をろ過

遠心分離装置

別のホテルから良質の廃食油を購入し、まずは枕カバーで不純物を取り除きます。そして、遠心分離装置に6~8時間かけて水分を分離した後、0.5ミクロンのフィルターを通してろ過し、燃料として使える状態になります。
遠心分離装置にかけている間は、内部の圧力が大きくなり過ぎないように監視している必要があるのと、1時間に1回程度、遠心分離器に溜まった水を捨て、中をクリーニングする必要があり、1日仕事になります。
装置は循環式で、ドラム缶の底に開いている穴からモーターで油を吸い上げて、遠心分離器を通って余剰分がドラム缶に戻されます。
最後のろ過フィルターは、比較的簡単で、30分から1時間で、燃料として使用可能な状態の廃食油が得られます。


遠心分離器底面部

遠心分離器のクリーニング

精製後の廃食油

こうして精製される廃食油燃料ですが、本当にこれだけ苦労する価値はあるのでしょうか?
この車はフィリピンで最初のSVO(Straight Vegetable Oil:植物油専用)車になった思われます。
ジョランが採用しているシステムは、スタート時にディーゼルを使用し、植物油との切り替えができる2 TANK SYSTEMです。
最初に廃食油で車を走らせたときの嬉しさと感慨は忘れられません。 やはり、実現してよかったと思いました。
しかし、これはまだ第一歩を踏んだにすぎません。
バスやジープニーなどほとんどの公共の交通機関が、まだまだ黒鉛を撒き散らしているのが現状です。

植物油燃料車は、ディーゼル車よりは環境によいことは確かですが、地球温暖化やエネルギー問題の完全な解決策とは言えず、まだまだ課題が残されています。
バイオ燃料はあくまでも過渡期の産物であり、現在利用できる有効な方法の一つに過ぎないと私は考えています。
人口増加が著しい発展途上国では特に、農業用地がバイオ燃料の原料となる植物育成のための土地に取られてしまうという懸念もあります。
一つの提案として、荒地でもどこでも育ち、含油率が高いジャトロファ(JATROPHA)という植物を栽培する方法が挙げられます。
この植物は毒性があり、食用には適しませんが、3年の干ばつにも耐える力があり、実から40%も油を抽出できることから、植物油燃料の原料としては最適といえるでしょう。また、この栽培により、新たな雇用創出にもつながる期待がもてます。


黒鉛を撒き散らすバス

近年はガソリン価格の高騰が続き、人々の関心が経済面からバイオ燃料に高まりつつあります。
しかし、いずれ石油が枯渇することは目に見えていたわけですから、できるだけ早く代替燃料を利用することを考えるに越したことはありません。
地球なくしては人間は生きていられないのです。目覚めましょう、今、ここで。

 

REPORT MADE IN MAY 2008 BY CASEY TAKAYAMA